おとなになる必要ないよ【ナイショの妖精さん 3】
誠の両手がのびてきて、ガシっと、あたしの肩をつかんだ。
「ほぇっ!? 」
「ウエンディっ!! おとなになんかなる必要ないよっ! だって、おとななんてさ。恋とか愛とか、ドロっドロで。相手を気づかって、自分を押し殺したり。ヤキモチ妬いたり。相手が何考えてるんだろって、うんうん考えつづけたり。苦しいことばっかりじゃんっ!
もう、そんなの考えるの、ぜ~んぶやめて、ぼくといっしょに、ずっと子どものままで、楽しいことだけ考えて暮らそうよっ!」
え……? なに、そのセリフ……?
二重のクリクリの目が、真正面からあたしを見つめてくる。
もしかして……今の……誠の本心……?
「……そうだね、そのほうが楽しいのかも……」
あたしの口からも言葉がこぼれた。
だって。なんだか、すごくつかれちゃった……。
有香ちゃんのことが、かんちがいだってわかって。ホッとしたとたんに、ヨウちゃんてば、「話がある」とか言い出すんだもん。
なに言われるんだろって、あたし、また、もんもん……。
「恋なんかしないほうが……ずっと気楽に、楽しく笑って暮らせるのかもしれないね……」
ちょっと前のあたしが、そうだった。
まわりが恋しておとなになっていく姿に、とりのこされたような、あせりがあって。
だけど、「いつかは、妖精の世界に行くんだ!」って。胸にファンタジーを抱きしめてた。
いつの間に、かわっちゃったんだろう……。
ファンタジーはまだ、しっかりと胸の中にあるのに。
あたしも、知らない間に、おとなの道を歩き出してた……。
「おまえら、アホなこと言ってんじゃねーよっ!! 」
後ろから、低い声がきこえてきて、ハッとなった。
ふり返る前に、大きな手のひらがのびてきて、ぐいと左腕をつかまれる。
……ヨウちゃんっ!?
「ピーターパンめ。ウエンディはさらっていくぞっ!」
あたしをつれて、ヨウちゃんは、ぐいぐい誠からはなれてく。
「えっ!? ウソっ! ちょっとっ!? 」
フック船長って、このとき、こんなふうに割り込んでくるんだったっけっ?