洗礼 【ナイショの妖精さん 1】
……ヘンなの。
そよそよ風が吹く芝生の真ん中に、あたし、目をつむって、中条と寝ころんでる。
学校では一言もしゃべらないような他人なのに。今は、肩がふれるほどそばにいる。
「……和泉、ごめん。とうさんのこと、おまえに押しつけようとして」
「……え?」
となりに寝そべる中条の顔の上に、パッと腕が置かれる。中条の右腕に隠れて、ほおしか見えない。
「う、ううん。あたしはただ、妖精に興味があるから……。勝手にフェアリー・ドクターになりたかっただけ」
だからそんな、中条の家庭にわり込むみたいな、重い気持ちじゃなかったのに。
「あ、あたしこそ、ごめんね。あたしもしかして、なんにも考えないで、勝手に人の家のことに首つっこんでた?」
「それが、和泉だろ?」
「え?」
「アホっ子だから、なんも深く考えない」
あっ! ムカッ!
「なによっ! 人のこと、アホとか言わないでよ !!」
ぷっとふきだす声がした。
見たら、腕の下で、中条が体を震わせて笑ってる。
……あれ……?
ほっぺた赤い。桃みたいにやわらかそう。
「……まぁ、たしかに、和泉の言うとおりかもな。球が見えないのは、オレのせい。和泉はいっつも自然に自分を出せてる。外面ばっか気にして、自分を出してこなかったのは、オレだから」
なにそれ……。
こんな素直な中条、あたし知らない……。
心臓バクバク。なんか中条のいるほうの右肩が、ガッチガチにかたまってるし。
そっと、横目で相手を見たら、腕を顔からおろして、目を閉じてた。
あ……ほっぺた、まだ桃みたいなピンク色。
口元がふわっと笑ってる。
そっか……これが自然……。
あたしももう一度、目を閉じて。
ドクンドクン。自分の心臓の音に耳をすませて。
ふっと体のまわりに、澄んだ空気が広がった。
円状にとりまくパウダーの上を、すーっと、虹色の光が伝ってく。
虹色の光は帯状に、あたしと中条を取り巻いて、まあるい円になる。
円から、ぽわっと、虹色の光の壁が立ちのぼった。
壁は半透明に光りながら、あたしたちをドーム状に包み込んでいく。