top of page

​オレのために帰って来い 【ナイショの妖精さん 1】

​シーンにもどる

「い、行くなっ!! 」


 ヨウちゃんがふらふら、こっちに近づいてくる。


「えっ!?  だ、ダメっ! 今、来ちゃあぶないっ!」


 ピュンっと風が、ヨウちゃんの右肩をかすめた。スパッとTシャツのそでが切れる。

 ヨウちゃんは、ハッと、左手で右肩を押さえた。


「チチチチ」


 見ると、少女の妖精は、口を三日月形にあげて笑ってる。


 心臓がイヤな音で鳴った。


 この子……もしかして、ヨウちゃんを近寄れなくするために、スビードをあげたっ!?


 どくん。どくん。どくん。どくん。


 あたしの心臓の音が、夜の闇を支配する。



 あたし、このまま妖精の世界に行くんだ……。



「よ、ヨウちゃんっ!」



 髪の毛を舞い散らす風の外から、「綾ぁっ!! 」ってきこえてきた。


「たしかに、おまえの言うとおりかもしれないっ! 人間の世界なんて、ごちゃごちゃめんどくさいことばっかりなのかもしれないっ!

学校なんて、まわりとくらべられることしかなくて。同じスピードでできることを強要されて! ちょっとでも、遅かったり、人と同じようにできないと、それだけであ~だ、こ~だ指摘されて、コケにされてっ!

こんな場所にとどまるより、新しい場所に行ったほうが、楽しくてラクに暮らせるのかもしれないっ! ……けどっ! ……でも……」


 ヨウちゃんが身を丸めて、突進してきた。

 バチバチ、バチバチ。ほおに腕に肩に足に、一瞬にしてたくさんの切り傷がつく。


「や、ヤダっ! やめてっ!!」


 なのに、ヨウちゃん。ぎゅっと顔をしかめて、まだつっこんでくる。

 手がのびて来た。大きな硬くて太い腕。

 右手がしっかりつかんでいるのは、小ビンに入った虹色の液体。


 ……薬……できたんだ……。



「……オレがいるじゃねぇか」



 眉をしかめて。ほっぺたに傷をつくって。琥珀色の瞳が、勝気に笑った。

 

 

 

「……え?」


「人間の世界には、オレがいるだろ? おまえの友だちがどっかに行こうが、おまえがクラスでひとりぼっちになろうが、オレがずっと、おまえといてやるよ。オレだけはぜったいに、綾を見放さない。だから……お願いだからっ! オレのために帰って来いっ!! 」



 

bottom of page