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ヤダぁ~っ!! 【ナイショの妖精さん 1】
どうしよう。
夢から覚めたら、羽が抜けちゃう。
あたしは妖精の世界に行けなくなる。
「ヤダぁ~っ !! 人間の世界になんて、もういたくない~っ !!
人間の世界なんて、ごちゃごちゃごちゃごちゃ、めんどくさいことばっか! 恋とか、人間関係とか、気にしなきゃならないことばっかりでっ !! みんなと同じスピードで、歩いていかなきゃならなくてっ! ちょっとでも遅かったら、指さされて、笑われて。
最後には、みんなから見放されて。あたし、ひとりぼっちになっちゃうっ!! 」
「……綾……」
だって……だってね。
「妖精の世界に行くこと」は、あたしの救い。
どんなにアホっ子でも、ドンくさくても。ちゃんとどこかには、自分の居場所があるんだって、安心していられること。
それがなくなったら、あたし……どうしたらいいの……?
「ヤダぁ~っ!! あたしは妖精だもん~っ!! 」
ぶわっと、背中で風が吹いた。
冷たい風。
窓のカーテンを舞いあげて、あたしの体のまわりに、竜巻みたいな渦をつくる。
バラバラと髪の毛が乱れた。
ひざのところで、白いワンピースのすそがひらめく。
「……あ……や……?」
間の抜けた声がした。
顔をあげると、教室の真ん中で、ヨウちゃんが目を見開いていた。
足を支えるスイッチが切れたみたいに、ストンと腰から、ゆかにへたりこむ。
あたしに向けられてる、琥珀色の目。ふわふわゆれて、さだまらない。
「お……お、おまえ……はね……」
羽――?
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