ヘアベルの自白【ナイショの妖精さん 2】
「ヨウちゃんは、ひとりで黒いタマゴを壊しに行くつもりなの?」
ヨウちゃんののどが鳴った。
眉がひそまる。琥珀色の目が、震えだす。
「書斎に、薬のビンがならんでた。あれって、戦闘準備だよねっ?」
パーカのポケットが虹色に光った。ヨウちゃんの体全体を虹色に包みこむ。
「――そうだ」
ほおを引きつらせながら、ヨウちゃんが口を動かした。
「なんで、ひとりで行くのっ!? あたしも行くっ! ヨウちゃんといっしょに、黒いタマゴを壊しに行くっ!! 」
「それは……ダメだ」
「どうしてっ!? 」
あたしはぎゅっと、両手で、ヨウちゃんのパーカの胸をつかんだ。
ヨウちゃんが奥歯をかみしめる。
抵抗してるんだ。ヘアベルの魔力に。
「……もし、なにかあったとき……オレが……おまえをたよろうとするから……」
ヨウちゃんのこめかみを、汗が伝った。
「妖精のりんぷんは……万能薬だ。妖精のりんぷんは……人が妖精から受けたすべての傷を癒す」
……え?
あたしの持っている銀色の羽。その羽を形づくってる銀色の光の粒。
あのりんぷんに……そんな力があるの……?
「誠が治ったのも……りんぷんの力だ……。だけど、ダメだ。これ以上、りんぷんをつかうな! りんぷんをつかいきると、妖精は消滅するっ!! 」
――消滅……っ!?
「……ウ……ソ……。そんなのあたし……知らない……」
「知らないに決まってんだろっ!! 教えないようにしてたんだからっ! おまえ、アホっ子だから、万能薬だなんて知ったら、いい気になって、りんぷんをつかいまくるに決まってんだっ! で、気づいたら手遅れじゃ、すまないんだよっ!!
オレは、べつに、おまえを黒いタマゴのところに連れてったって、おまえのりんぷんを、たよるつもりはない。けど、わかんないじゃねぇかっ!! いざとなったときに、自分がどういう行動に出るかなんてっ!! もし、オレが、自分のことを優先させて、綾を犠牲にでもしたらどうすんだよっ!! 」
「……よ、ヨウちゃん……」
ハアハア肩で息をつきながら、ヨウちゃんの体から力が抜けていく。
ぽうっと、体を包み込む虹色の光。
これが、ヨウちゃんが、必死で隠してたこと――。
「綾……オレ、怖いんだ……」
背中を丸めて、ヨウちゃんは、頭を、こてんとあたしの左肩に倒した。
「オレ……今も、あの目に見られてる気がする。あの目は……オレのことを、とうさんだって、思ってる。自分が殺したはずのとうさんが、まだ生きてたんだって、息巻いてる。いつでも殻からとびだして、襲ってやるって身がまえてる……」
「ヨウちゃん……」
やっぱり、ヨウちゃんは知ってたんだ……。
お父さんが亡くなった理由……。